【2843】 ○ 渡辺 兼人 『既視の街―渡辺兼人写真集』 (2015/10 東京綜合写真専門学校出版局) ★★★☆

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「既視」と「既視感」は違うようだが、「既視感」に満ちた写真集ということでもいいのでは。

渡辺兼人写真集「既視の街」0.jpg渡辺兼人写真集「既視の街」  .jpg
既視の街―渡辺兼人写真集』(32 x 25 x 2 cm)

渡辺兼人写真集「既視の街」1213.jpg 写真家・渡辺兼人(かねんど)の写真集。1947年生まれなので、先に取り上げた篠山紀信氏などよりは下の世代にあたり、活動期は1970年以降。ただし、マスコミに顔出しするようなことはあまりないですが、写真展は定期的に開いているようです。1992年に第7回「木村伊兵衛写真賞」を受賞し、既に大御所と言えるかと思いますが、写真集はあまり多くないなあと思ったら、写真展の方に注力しているようです。

渡辺兼人写真集「既視の街」3839.jpg このモノクロ写真集は、1973年から1980年まで撮影された写真作品を収め、1980年に金井美恵子の小説との共著として新潮社から刊行されており、『既視の町』というのはその時二人が考えたタイトルだそうです。その本の写真の部分を残すために再構成したのが本書で、1980年の単行本に収録された写真53点のうち4点ネガが存在せず、一方、未収録・未発表写真を何点か加えて作った「完全版」であるとのことです。

渡辺兼人写真集「既視の街」5455.jpg したがって、プラネタリウム、高速道路、工場、河、電車が吸い込まれていくビル(銀座線渋谷駅か)、ショウウィンドウ、ビルボード、家、道路、クルマ、干された布団等々、日常見かけるものが多く被写体になっていますが、撮影されたのが昭和48年から55年ということになり、どこか懐かしさを覚えます(取り壊し前のの工場とか、開発前の空き地みたいな写真も多い)。ありきたりの光景にも見えて、不遜にも自分もこれくらい撮れるのではないかと思ってしまうけれども、技術面もさることながら、そもそも、いざ今の時点で同じような光景を探すとなると、意外とたいへんかも。
 
 いつどこで撮られたのか確認してみたくなりますが、他の多くの写真家と違って、この写真家はそうした記録をほとんど残していないようです。それも、ちょっと面白いと思いました(スペックではなく写真そのものがどう見られるかで勝負しているとうことではないか)。

 タイトルではないですが、何となく夢で見たのか、あるいは実際に昔に同じような光景を見たことがあったのか、と思わせる写真が多いです。そこで、いつどこで撮られたのか確認して、「やっぱり違った」となるよりは、曖昧な記憶は曖昧な記憶のままで、「ああ、これなんか見たことある」という感じでいいのではないかと思いました。

 タイトルのままの感想ですが(笑)、実はこの「既視の町」というタイトルには、写真評論家タカザワケンジ氏の解説によると深い意味があるようです(「既視感」と「既視」は違うと)。写真論としては面白い。でも、自分としては、「既視感」に満ちた写真集ということでもいいように思いました(40年近い時の流れのせいもある)。

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